前回はテフロン加工(フッ素樹脂加工)のフライパンや鍋など調理器具の安全性についてとりあげましたが、その内容をお読みいただき、さっそく「脱テフロン」を考えた方も多いのではないでしょうか?
確かにテフロン加工の調理器具は値段もお手ごろ、便利で使いやすいというメリットがあります。 しかし環境への影響、そして健康へのリスクを考えて、安全に使える他の材質の調理器具を選ぶことをおすすめしました。
では、いったいどのような材質の調理器具を選んだらよいのだろうか?と迷っている方のために、今回はテフロン以外のなどのフライパンや鍋などの調理器具について詳しくお話をしたいと思います。
- 鉄製のフライパンや鍋
- ステンレス製のフライパンや鍋
- 銅製のフライパンや鍋
- アルミニウム(アルミ)製のフライパンや鍋
- ガラス製及びホーロー引きのフライパンや鍋
- ほかの材質のフライパンや鍋
- まとめ
- 参考資料
フライパンや鍋などの材質を選ぶ場合、鉄、ステンレス、銅、アルミニウム、そしてガラスやホーローが考えられます。
これらの材質には料理をするにあたってのメリットやデメリット、そして安全性に関して考慮しなければいけない点があるので、それらを知ったうえで自分にあったものを選ぶことが大切です。
鉄製のフライパンや鍋
鉄鍋、そして鉄のフライパンは昔から日本でも広く使われていたものであり、材質の安全性を考えた場合は一番のおすすめです。
鉄製のメリット
鉄は熱伝導に優れているため、少ない火力で調理することができます。また強火で使うこともできるので、空焚きをしたい場合や強火で手早く調理したい炒め物などに最適です。丈夫で使っているうちに油が馴染んでくるので、他のフライパンなどに比べて長く使うことができます。
また調理中に鍋やフライパンから鉄分が溶出するので、貧血などの鉄の摂取不足による症状がある人は、日常的に鉄分を補給できます1 (逆に鉄過剰症が疑われ、疲れやすさや肝障害、関節の痛みなどがある人には不向きです)。
鉄製のデメリット
ただし熱伝導が良い分、焦げやすいので火力に気をつける必要があります。また重量があるので扱いづらく、きちんとお手入れをしないと錆びがきてしまいます。使用後は洗剤をつかわずに洗い流し、水分をふきとった後に火にかけて乾燥させる手間がかかります。
ステンレス製のフライパンや鍋
ステンレスはもともとステン(=汚れ、シミ、さび)、レス(=~ない)ということで、汚れやシミがつかない、そして錆びない金属を表す言葉です。 安全性、また材質のメリット・デメリットを考えた場合、普段使いとしておすすめです。
ステンレス製のメリット
ステンレス製のフライパンや鍋は丈夫で錆びにくいので、長期間の使用が可能です。一度温まると熱が逃げにくいため保温性に優れており、酸性やアルカリ性にも強いためにいろいろな料理に使うことができます。
ステンレス製のデメリット
しかし熱伝導率が低いために部分的に温度が高くなり、焼きムラや焦げつきが起こりやすいので注意が必要です。洗う際には硬いものは使わずに、ある程度熱が残っている間にスポンジなどの柔らかいもので洗うようにしてください。
ステンレスは、ほかの金属を混ぜた合金
ステンレスとは鉄を主成分(50%以上)とし、クロムを10.5%以上まぜた合金です。クロムは土中や体内に存在する無害の金属で、クロムを加えることによりステンレスには錆びにくいというメリットが生まれます。
ステンレス製のフライパンや鍋には、この錆びに対する性質をもっと向上させるためにニッケルを加えた製品や、他の金属を加えたものもあります。
クロムとニッケルの含有率が数字で表示される場合もありますので、購入する際にはどの金属を使って作ったステンレスなのか、材質を確認することが大切です2(例:18-0とはクロム18% ニッケル0% / 18-10 とはクロム18% ニッケル 10%)。
クロムは有害でないの?
クロムに関しては安全性について疑問を持たれる人もいると思います。クロムにはその化合物として、三価クロムと六価クロムがあります。
六価クロムは極めて強い毒性を持つことが知られています。しかしステンレスから溶出するクロムは毒性のない三価であると報告されていますので3、ステンレスに含まれているクロムは安全といえます。
ニッケルの安全性は?
またニッケルも土壌や水中に自然に存在しており、日常の食事から摂取される程度の量では、体内に蓄積せず毒性もないとされています(注:連続大量投与では成長阻害やアレルギー性皮膚炎を引き起こす)。
また1996年に行われた研究結果によると、ステンレス製器具からはニッケルの溶出はほとんどなかったと報告されています4。
しかしアクセサリーなどに含まれるニッケルが皮膚に長時間触れるとアレルギー反応がでる人は、ニッケルに対して感受性が高いと考えられので、ニッケルを含むステンレス製のフライパンや鍋の使用には注意する必要があります。
また2018年に発表された研究によると、ニッケルがガンをひき起こす分子メカニズムの一つを解明されたとしています5。ただし、ニッケルの発がん性に関しては吸入暴露以外の経口暴露については不確実であり、国際がん研究機関(IARC)も「おそらくヒトに発がん性を持つ」との評価にとどまっています6。
※ステンレス製のフライパンや鍋に磁石を近づけてみて、もしくっつかないようであれば、ニッケルが多いということなので、買うのはパスしたほうがいいかもしれません。
銅製のフライパンや鍋
銅製の鍋、フライパンは美味しい料理に仕上がることから、プロの料理人に好まれる調理器具の一つです。ただ比較的高価なことや、使い方に気を使わなければならないことを考えると、お料理や片づけを楽しめる人向きかもしれません。
銅製のメリット
銅は熱伝導が鉄やステンレスと比較すると格段に優れており、熱が食材にムラなく均等に伝わります。温度調節がしやすく、弱い火力でも短時間で調理をすることができます。
また銅には抗菌作用や消臭効果があるといわれています。銅に少しの水を足すと銅イオンが発生し、細菌の繁殖を抑えてくれます7 (銅製の花瓶は花が長もちするのは、それが理由)。
銅製のデメリット
しかし銅製のフライパンや鍋の安全性を考える場合、最も気をつけなければいけないのが酸の強い食材や調味料(酢・ソース・ケチャップ・マヨネーズなど)を使用した場合に起こる急性銅中毒です。
銅はもともと体内にも存在し、酵素の活性化、鉄の代謝、神経伝達物質の産生、そして活性酸素除去などに欠かせない微量栄養素です8。 しかし一度に多量に摂取した場合、吐き気、嘔吐、下痢などの中毒症状を引き起こします。
日本では過去にソース焼きそばによる銅中毒や9、銅製である水筒にスポーツドリンクを入れ銅中毒になった事例があります10。 これらを踏まえて銅製の調理器具を使用する場合、酸の強いものは調理しない、また調理後は早めに別容器に移すなどの注意が必要です。
全面メッキ加工しているものが多い
日本では長い間、銅の錆びである緑青が有毒なものだと信じられていました。そのため銅製または銅合金製器具については、器具・容器包装の製造基準で「その食品に接触する部分を全面スズメッキ又は銀メッキその他衛生上危害を生ずるおそれのない処置を施さなければならない」と今でも規定されています11 (注:しかしこの緑青有毒説には確かな根拠がなく1984年に厚生省も緑青は「無害に等しい」との認定をだしている7)。
こうしたことから、銅製のフライパンや鍋をはじめとする調理器具にはメッキ加工がほどこされているものが多いので、メッキがはがれないように丁寧に扱う必要があります。
また銅はもともと柔らかい素材のため、ぶつけたり落としたりすると簡単に変形してしまいます(注:メッキ加工を施されていない銅製の調理器具も輸入品を中心に日本で販売されています12)。
スズメッキに毒性はない?
スズメッキに関しては、スズの健康への影響について疑問をもつ人もいると思います。これは有機スズ化合物が内分泌かく乱作用や免疫毒性作用があることが知られるようになったことで、スズは有害と思われているからです。
しかし日本では現在、有機スズ化合物は「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」に基づき、製造・輸入が制限されています13。スズメッキに使われているのは無機スズであり、毒性は確認されていないといわれています14。
アルミニウム(アルミ)製のフライパンや鍋
アルミ製のフライパンや鍋、その他の調理器具、特に鍋は昔から家庭ではよく使われていました。しかし安全性に疑問ものこるので、使い方には十分な注意が必要です。
アルミ製のメリット
アルミニウムは銅に次いで熱伝導が高く、強火・弱火での温度調節が簡単にできます。特にアルミ製の鍋は、じっくり弱火で煮込む煮物や汁物の調理にむいています。また軽いために使いやすく、お手入れも中性洗剤で洗うだけという手軽さがあります。
アルミ製のデメリット
しかしアルミニウムは酸に弱いので、酸の強い食材や酢などの調味料を使うことにより溶け出す恐れがあります15。また油が馴染みにくく焦げつきやすいので、強火で手早く仕上げる炒め物などの料理には不向きです。
アルミニウムが体内に蓄積?
アルミニウムは過剰摂取により腎機能障害のある人では、透析脳症などの神経毒症状がおこることがあります。また腎臓の機能が完全ではない乳児や未熟児は、アルミニウムがしっかり排出できずに体内に蓄積してしまう恐れがあるために注意が必要です16。
なお、アルミニウムはアルツハイマー病の発症に何らかの関係があるといわれていましたが、WHO は1997年にその関連性について明確な科学的根拠はないとの見解を表明しています15。しかしアルミニウムの体内での代謝は十分に解明されておらず、アルツハイマー病との関連性を完全には否定できないという研究者もおり、更なる研究が行われています15。
ガラス製及びホーロー引きのフライパンや鍋
ガラス製そしてホーロー引きのフライパンや鍋は、材質が溶けだす心配がなく、高温でも使用が可能なのでおすすめの調理器具のひとつです。
ガラス製・ホーロー引きのメリット
ガラス製そしてホーロー引きの鍋やフライパンをはじめとする調理器具は、保温性が高く、酸やアルカリに強いというメリットがあります。特にホーロー引き鍋の場合、熱が回るまで時間がかかりますが、一度熱くなると冷めにくいので、特に煮込み料理などに向いています。耐久性にも優れていまので、長く使うことができます。
ガラス製・ホーロー引きのデメリット
しかしこれらの調理器具は重量があり、衝撃に弱いので、落としたりしないように慎重に扱う必要があります。
カドミウムや鉛が溶け出す心配は?
もともとガラスはケイシャ(砂)、ソーダ灰、石灰石といった自然に存在する原料を高温で溶かして作られています17。またホーローは鉄を下地として、その上にガラス質の釉薬を塗り、高温で焼きつけて製造します18。このように自然素材そして高温で作られたガラスやホーロー引きの製品は、一般的に安全といわれています。
しかし、ガラス製品には輝きを増すために鉛を入れたり、ホーローの釉薬には金属を含んだものを使用することがあり、有害金属であるカドミウムや鉛などが溶出する可能性があります。
そのため日本では、器具及び容器包装の製造基準によって、鉛とカドミウムの含有量が厳しく制限されています19。さらに調理用鍋から溶出される微量元素の研究報告によると、ホーロー製鍋を通常の調理で使用した場合、元素の溶出による急性・慢性暴露による健康へのリスクは少ないとしています20。
ほかの材質のフライパンや鍋
これまで見てきた材質以外にも、最近では、シリコーンをはじめ、テフロン加工のフライパンや鍋に代わる焦げつき防止コーティングをほどこしたGreen Panなどが販売されています。
シリコーンはケイ素から作られた合成ゴムの一種ですが、シリコーン製のフライパンや鍋の安全性については、まだ十分な科学的研究がありません21。
またGreen PanはThermolon(サーモロン)というセラミックコーティングを使用することにより、人体や環境に及ぼす化学物質を一切使わず製造されているとしています22。しかし、2019年に「完全に無害である」というのは虚偽であり、誇大広告であると集団訴訟が起こっており、その安全性は不確かです。23。
まとめ
このようにフライパンや鍋などの調理器具にはさまざまな材質のものがあり、それぞれメリットとデメリットがあります。そして、それぞれの材質の安全性には注意を払う必要があることが、ご理解いただけたのではないでしょうか。
今は冷凍食品やインスタント食品など、フライパンや鍋を使わなくても食事ができる便利な時代です。しかし健康な体を作る基本は、ホールフーズ(栄養素がつまった食物)をつかった食事をきちんとすることです。
そのためにも、毎日使うフライパンや鍋などは安いからという理由だけで選ぶのではなく、できるだけ長く使用できるもの、そして安全性の高いものを選ぶことをおすすめします。
お料理を美味しく、そして健康にプラスになるように調理するために、今ご家庭にあるフライパンや鍋などの調理器具をぜひ一度、見直してみてください。
筆者: 豊田 幸代
JHNA認定ストレスニュートリショニスト
認定ホリスティックプラクティショナー
参考資料
- 調理中に鉄鍋から溶出する鉄量の変化
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https://www.jssa.gr.jp/contents/stainless_display/ - 一般財団法人ボーケン品質評価機構(通称 ボーケン) 六価クロム
https://www.boken.or.jp/knowledge/chemical_analysis_knowledge/heavy_genus/1833/ - ステンレス製器具及び食器からの金属の溶出
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shokueishi1960/38/3/38_3_170/_pdf - A molecular mechanism of nickel (II): reduction of nucleotide excision repair activity by structural and functional disruption of p53, Yeo Jin Kim, Young Ju Lee, Hyo Jeong Kim, Hyun Soo Kim, Mi-Sun Kang, Sung-Keun Lee, Moo Kyun Park, Kazuyoshi Murata, Hye Lim Kim, Young Rok Seo, Journal: Carcinogenesis, Issue: 39(9): 1157–1164 Date: 2018.6.19 published, https://academic.oup.com/carcin/article/39/9/1157/5025442 org/10.1093/carcin/bgy070
- ニッケル化合物に係る健康リスク評価について
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